💉 血液医療の世界
血液製剤と稀少血液型システムの深い世界へようこそ
血液製剤の種類と使い分け
🔬 全血輸血から成分輸血へ
かつては献血された血液をそのまま輸血する「全血輸血」が主流でしたが、現代では血液を成分ごとに分離して必要な成分だけを輸血する「成分輸血」が中心です。これにより、1人の献血から複数の患者を助けることができ、副作用のリスクも大幅に減少しました。日本では献血の約95%が成分輸血に使用されています。
🩸 血液の成分構成
水分、タンパク質、電解質、凝固因子などを含む液体成分
酸素を全身に運搬。ヘモグロビンを含む
免疫機能を担当。細菌やウイルスと戦う
血液凝固に関与。出血を止める
💉 主な血液製剤
📋 概要
全血から血漿と血小板を除去し、赤血球を濃縮した製剤。輸血の約70%を占める最も使用頻度の高い血液製剤です。
🏥 適応
- 慢性貧血(ヘモグロビン値が低い状態)
- 手術時の出血補充
- がん治療による貧血
- 骨髄機能低下による貧血
- 消化管出血
📋 概要
血液から血小板のみを分離・濃縮した製剤。室温で常に振盪しながら保存する必要があり、有効期限が非常に短いのが特徴です。
🏥 適応
- 血小板減少症(血小板数が少ない)
- 白血病など血液がんの治療中
- 骨髄移植後
- 化学療法による血小板減少
- 大量出血時の止血
⚠️ 重要
血小板は常温保存のため細菌増殖のリスクがあります。また、ABO式血液型の適合が重要で、不適合輸血では効果が著しく低下します。
📋 概要
採血後6時間以内に分離・凍結した血漿。凝固因子やアルブミンなど血漿タンパク質を全て含みます。
🏥 適応
- 凝固因子欠乏症
- 肝疾患による凝固障害
- 大量輸血時の希釈性凝固障害
- ワルファリン投与中の緊急手術
- DIC(播種性血管内凝固症候群)
📋 概要
血漿から精製したアルブミンタンパク質。膠質浸透圧を維持し、循環血液量を増加させます。ウイルス不活化処理済みで安全性が高い。
🏥 適応
- 低アルブミン血症(血清アルブミン2.5g/dL以下)
- ネフローゼ症候群
- 肝硬変による腹水
- 大量出血時の循環血液量維持
- 熱傷
📊 日本の輸血医療統計
(日本)
占める割合
使用率
助けられる患者数
稀少血液型の世界
🌍 400種類以上の血液型抗原
私たちが普段「血液型」と呼んでいるABO式とRh式は、実は血液型システムのほんの一部に過ぎません。現在、国際輸血学会(ISBT)によって43の血液型システムが認定されており、400種類以上の抗原が発見されています。その中には、数万人〜数百万人に1人しか持たない極めて稀な血液型も存在します。
🔬 認定された血液型システム
国際輸血学会が認定する血液型分類システムの数
🧬 発見された抗原
赤血球表面に存在する抗原の種類
⭐ 臨床的に重要な抗原
輸血時に特に注意が必要な抗原
💎 代表的な稀少血液型
📝 概要
1952年にインドのボンベイ(現ムンバイ)で初めて発見されたことから命名されました。H抗原という基礎となる抗原を作れない遺伝子変異により、ABO式の抗原が赤血球表面に現れません。
🔍 特徴
- ABO式の検査ではO型と判定されることが多い
- しかし、実際にはA・B・H抗原すべてに対する抗体を持つ
- 通常のO型の血液も受け入れられない(H抗原があるため)
- 輸血は同じボンベイ型の血液のみ可能
- インドでは約8,000人に1人と比較的多い
⚠️ 医療上の注意
誤ってO型と判定され、通常のO型の血液を輸血されると重篤な溶血反応を起こす危険性があります。そのため、精密な血液型検査が必須です。
📝 概要
「黄金の血(Golden Blood)」とも呼ばれる世界で最も稀な血液型。Rh式の50種類以上の抗原すべてを持たない極めて特殊な血液型です。
🔍 特徴
- Rhシステムの全ての抗原が欠如している
- 赤血球の形状が異常で、溶血性貧血を起こしやすい
- 理論上は全てのRh式血液型に輸血可能(超万能供血者)
- しかし本人は同じRh null型の血液しか受けられない
- 世界中でドナーが極めて限られている
⚠️ 医療上の課題
緊急時に適合する血液を確保することが極めて困難です。一部の国では、Rh null型の人の血液を冷凍保存して緊急時に備える体制を取っています。
📝 概要
Kidd血液型システムの抗原を持たない血液型。ポリネシア系の人々に比較的多く見られます。
🔍 特徴
- 尿濃縮機能に若干の影響がある可能性
- Kidd抗原に対する抗体を作りやすい
- 遅発性輸血反応を起こすことがある
- 新生児溶血性疾患の原因となることも
📝 概要
Diego血液型システムは人類学的に興味深く、モンゴロイドの移動を追跡する遺伝マーカーとしても使用されています。
🔍 特徴
- 日本人の約10%がDi(a+)を持つ
- 南米先住民で最大40%の保有率
- ヨーロッパ・アフリカ系ではほぼゼロ
- 新生児溶血性疾患の原因となることがある
- 人類の移動経路研究に貢献
📊 主要な血液型システムの比較
| システム名 | 抗原数 | 発見年 | 臨床的重要性 |
|---|---|---|---|
| ABO | 4種類 | 1900年 | ★★★★★ 輸血の最重要基準 |
| Rh | 50種類以上 | 1940年 | ★★★★★ ABO式に次ぐ重要性 |
| Kell | 30種類以上 | 1946年 | ★★★★☆ 新生児溶血性疾患の原因 |
| Duffy | 6種類 | 1950年 | ★★★☆☆ マラリア感染と関連 |
| Kidd | 3種類 | 1951年 | ★★★☆☆ 遅発性輸血反応の原因 |
| Diego | 21種類 | 1955年 | ★★☆☆☆ 人類学的に興味深い |
🔬 なぜこれほど多くの血液型が存在するのか?
血液型の多様性は、人類が数百万年かけて様々な環境に適応してきた結果です。例えば、Duffy陰性の血液型はマラリアへの耐性があり、アフリカでは高頻度で見られます。また、血液型の多様性は、病原体との軍拡競争の産物でもあります。特定の病原体は特定の血液型抗原を利用して細胞に侵入するため、多様な血液型を持つことで集団全体の生存率が高まるのです。